Sugarless









「…ん……朝…?」


普段よりも早くに目が覚めて、制服に着替える。


「気持ち悪い……。」


胃の中から込み上げてくるような不快感。


(きっと…英二先輩の事でストレス溜まってるんだろうな…。)


誰かに相談出来る関係でないから、一人で悩むしか方法がなかった。

今更になって後悔してきたのかもしれない。


「俺達の間に…愛ってないのかな………。」


そう思うとマイナスの方向に思考が走ってしまう。

嫌な考えを拭うように階下へと急ぐのだった。








「お早う、リョーマさん。今日は早いのね?」


「ん…目が覚めた……。」


テーブルに並んだ洋食に、嫌々ながらにも手を出す。

スープを飲むリョーマに、菜々子はあら?と疑問を感じる。


「リョーマさん…具合悪いんじゃない?顔色が凄く悪いわ…。」


「?!……そんな事ないよ?行って来ます!」


家族に覚られる事だけは嫌なので、急いで家を飛び出した。

体全体がズシリと重く感じるが、今だけだ…と体に鞭を打つ。

















































(体が…辛い。テニスが苦痛に感じるなんて、初めてだ……。)


何とか朝練だけでも誤魔化そうと努めたリョーマだが、誤魔化されない人物が数名居た。


「乾…リョーマ君、何か変じゃない?」


「そうだな…、動きが悪い。風邪でも引いたのかな。」


「俺、越前を保健室に連れてくよ。」


名乗りを挙げた大石に、不二は軽く舌打ちをしながらもにっこりと了解する。







「越前…具合悪そうだから、保健室へ行こう?」


大石の言葉に、リョーマは体が硬直する。


(気づかれた…。仕方がないか、実際辛いし……。)


「…行くっす。」


素直に従うリョーマに、大石は微笑を浮かべた。














































「…今日は保健医の先生は居ないみたいだな。越前、このベットで少し休んだら?」


「ん…。」


言われた通り横になるリョーマに、大石は心配そうに問い掛ける。


「一体どうしたんだ?」


(大石先輩なら…英二先輩の事をよく知ってるよね…)


「大石先輩…相談してもいいっすか……?」


やっと口を開いたリョーマに、大石は小さく頷く。


「付き合ってる人が居るんだけど…その人の気持ちが全然掴めなくて、辛いんだ……。」


「…そうなのか。でも、お互い好きなんだろ?」


「…判らないっす。俺自身、あの人が好きかも分からないし、あの人の気持ちも…まだ聞いてない。」


「……………。」


「その人さ…凄く気紛れでお調子者で……でも、皆に好かれるから…」


(大石先輩なら、相手が英二先輩だって解ってくれるよね?)


「…俺から言える事は、その相手の事を理解してやる事だな。」


「…え?」


「アイツは…いや、その人はきっと凄く不器用なんだよ。
告白した後で自分の気持ちに気づくタイプなんじゃないかな?」


「そうかもね…。大石先輩の言葉、信じてみてもいいかな?」


「あぁ、きっと大丈夫だよ。」


そう言って微笑んでくれる大石先輩に

俺に告白してきたのがこの人だったら良かったのに…と思ってしまう。


「有難う御座いました。何かスッキリしたよ。」


「どういたしまして。…さ、暫く眠って…」


毛布を掛けてくれる先輩の手に、軽くキスをする。


「え、越前っ!?」


「お礼っす。…嬉しかったから…。」


そう言って寝転がる。


暫くすると、大石先輩が出て行く気配がした。


まさか大石先輩の手にキスをした時

英二先輩がドア越しに此方を見ていたなんて知らない俺は

安心しきって眠っていた。



今度こそ英二先輩の気持ちが訊けると

ただそれだけを信じて……。